俺にはなぜ白人の肌だけが美の基準になったか、その経緯は知らぬ。なぜ今日まで彫刻や絵画に描かれた人間美の基準が、すべてギリシヤ人の白い肉体から生まれ、それをまもりつづけたのかも知らぬ。だが、確かなこと、それは如何に口惜しくても、肉体という点では永久に俺や黒人は、白い皮膚をもった人間たちのまえでミジめさ劣等感を忘れることはできぬという点だ。 遠藤周作『アデンまで』