「私は西洋と云ふところを、そんなに貴い麗はしい土地だとは知らなかつた。お前の国の男たちが、悉ことごとくお前のやうな高尚な輪郭を持ち、お前の国の女たちが、悉く人魚のやうな白皙の皮膚を持つて居るなら、欧羅巴ヨーロッパは何と云ふ浄い、慕はしい天国であらう。」
「私はもう支那の国に用はないのだ。南京の貴公子として世を終るより、お前の国の賎民となつて死にたいのだ。」
谷崎潤一郎『人魚の嘆き』