
就中なかんずく、最も貴公子の眼を驚かし、最も貴公子の心を蕩かしたものは、実に彼の女の純白な、一点の濁りもない、皓潔無垢こうけつむくな皮膚の色でした。白いと云ふ形容詞では、とても説明し難い程真白な、肌の光沢でした。其れは余りに白過ぎる為めに、白と云ふより「照り輝く」と云つた方が適当なくゐいで、全体の皮膚の表面が、瞳のやうに光つて居るのです。何か、彼の女の骨の中に発光体が隠されて居て、皎々こうこうたる月の光に似たものを、肉の裏から放射するのではあるまいかと、訝あやしまれる程の白さなのです。 谷崎潤一郎『人魚の嘆き』
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